buonitaliaのblog

2004年10月

ついに今年の一月に家で作った生ハムを食べた。はっきり言って、うちの生ハムは最高級のパルマの生ハムにも劣らないおいしさだ。

理由はやはり、近所の農家から買う豚の質の良さがあげられる。この豚はパルマ産のように脂肪分が多くなく、味がしまっている。樫の木だらけの村で、ドングリをよく食べるからこのような味になる。それでウンブリアは豚肉の産地として知られている。

よく近所の肉屋で売っている地元の生ハムは、あまりにも塩っ辛くて好きではない。しかしうちのは塩をそこまでたくさん使わないので、甘みと肉のおいしさがあわさってこの味になる。

切るのはもちろん、機械を使わないで包丁を使う。よく切れる長い包丁で切るのだが、表面がギザギザにならないように切らなければならない。機械のように薄く透けるようには切れないが、ちょっと厚めの方が断然おいしい。

切り方にもこだわりがあり、ローマの肉屋で、お客が「あれ、今日は親父さんいないの?じゃあ生ハムはまた今度にするよ」と帰って行くのを見たことがある。あれは親父さんの手で切った生ハムでないと食べたくないということらしい。

私はそんな年期の入った名人ではないけれど、生ハムがおいしすぎるので切り方は2の次でよしとする。

2、3ミリの厚さに切った生ハムを、パンとワインで食べる幸せと言ったらない。なにしろ豚の腿一本分なので、涼しい所に置いておけば3ヶ月以上保つ。

子供の幼稚園のおやつは、パンに生ハムをはさんで持たせる。バターもマヨネーズも野菜も何も入れないパニーノは、塩なしパンのほのかな甘みと生ハムの強烈なおいしさで、シンプルで飽きのこない味なのだ。

たくさんあるからローマの友人にもお土産に持って行くと感激してくれるし、大変な思いをして作って心底良かったと思う。

夫に、最近我が家は本当に農家のようになってきたね、と笑われた。ずっとローマの中心で都会生活を送ってきた夫は、まさか自分が自家製の生ハムを持つことになるとは思ってもみなかったようだ。

今日子



フォカッチャは地域によっていろいろなタイプがある。ウンブリアの私の近所のフォカッチャは、薪のオーブンで焼くピザで、周りがバリッとした厚めのものだ。

見学に行ったパン屋さんでの作り方は、塩なしパンと同じタネ(小麦粉と水を練って発酵させた天然酵母、ビール酵母、薄力粉、ぬるま湯)に、さらにオリーブオイルを大量に入れる。小麦粉50キロに対して1リットルは入れるだろうか。そしてもう一度ビール酵母を固形のまま足し、塩も入れてこね直す。そして生地の表面にオリーブオイルをたっぷり塗り、丸い形を作って発酵させる。時間は2時間だ。

そしてローズマリーと塩をちらして薪のオーブンでこんがり焼く。周りがバリバリして中はふわりとしておいしい。

ローマのパン屋さんのフォカッチャは、まず形も違う。もっと薄くて下はバリッと固く、上は生地をオイルで揚げたような感じだ。

作り方は、薄力粉にビール酵母を混ぜる。こちらは100キロの薄力粉に対してビール酵母が25~30gとかなり少ない。もちろん、ビール酵母は少ないにこしたことはない。酵母は腸内にガスを作り、カビが繁殖しやすくなり、消化にもよくないからだ(だいたい店では1日200kg以上フォカッチャが売れるそう)。

その生地にぬるま湯を入れてよく混ぜる。ウンブリアのもローマのもかなり水分が多く、この分量は手で触って判断するという。そこにオリーブオイルも入れるが、こちらも1リットル瓶一本分は入るだろう。

発酵する段階でも生地を丸めた後オリーブオイルを塗る。パン屋さんは大きな生地の固まりを簡単に持ち上げるが、実際はかなり柔らかくて型がくずれないように移動させるのはむずかしい。

そして4、5時間発酵させる。できたら生地を1m以上ある長方形の板の上に置いて手でのばしていく。下に打ち粉の代わりにセモリナ粉を十分に打っておく。ここからが面白い。マッサージと言って、両手で生地の全体をポンポンリズミカルにたたいていく。すると見る見るうちに生地がボコボコと凹凸をだしていく。こうすることで表面についているオリーブオイルと塩を生地に埋め込むのだそう。これはすごい職人技で面白い。

次に320度に熱したガスオーブンに入れる。大きな50センチくらいの長さの板で長い枝がついているものに器用に生地を元の半分の長さに縮め、オーブンの中に入れる時にまた元の長さに戻す(これもまたむずかしそうだ)。そして10分以上焼く。セモリナ粉は生地を滑りやすくするだけでなく、生地とオーブンの間にもう一つ層が出来、バリバリした香ばしい焼き加減になる。

焼けると表面がとてもきれいなきつね色になって見るからにおいしそうだ。このフォカッチャはローマの数あるフォカッチャの中でも一番のお気に入りで、行くとかならず食べる。薄くて表面が固いのに、中はきれいな気泡が出来てふわりとしている。日本で食べるファカッチャのモチモチした感触はまったくない(イタリア人はモチモチした食感を嫌う傾向がある)。

フォカッチャはどちらのパン屋もビール酵母を使うが、ウンブリアのはローマのに比べて随分多い。従って発酵時間も短くなるので胃にあまり良いとは言えない。しかし薪のオーブンで焼くおかげで、ビール酵母特有の臭みをとる。ものすごい高温(700度とかそのくらい)なので、酵母の悪い部分がなくなって軽くなる。

両方とも特徴がそれぞれ生かされていて、このパン屋見学はすごく面白いものになった。これから自宅でもパンやファカッチャを焼くのに役立てたい。

今日子



以前住んでいたローマの家の近所のおいしいパン屋さんに見学に言って来た。日本から来たパンの先生と一緒に行き、ウンブリアのパン屋とローマのパン屋を比較してみたかったのだ。

天然酵母パンやピザなど、いろいろなパンを見せてもらって大変勉強になった。ウンブリアの塩なしパンとはまったく製法が違っていておもしろい。そこのパン屋の自慢である、ラリアーノという天然酵母のパンは、小麦粉(全粒粉)とワインビネガー少々、それに水を混ぜたものを、1年近くねかしておく。2、3日に1度小麦粉と水分を少々加える。これだけ長い間ねかせておいても全く酸っぱい匂いがしないところが不思議だ。

(天然酵母はいろいろな種類がある。レーズンを使ったり果物を使ったりする他に、そこのパン屋さんの話では、昔はジャガイモの皮を使って作っている人もいたそうだ。ジャガイモを水につけ、4日後くらいから発酵が始まり、その水と全粒粉を混ぜて酵母の種を作っていたという)

ワインビネガーと小麦粉の酵母と薄力粉を使って、ラリアーノの生地を30分ほどこねる。次に一次発酵を5、6時間。形を整えたら二次発酵を1時間行い、セモリナ粉を周りにふって、300度のガスオーブンで焼く。このパンはビール酵母を使わないで焼くので、ほのかな酸味のあるパンになる。固くて噛み応えがあり、噛めば噛む程味がじんわりとでてくるようなパンだ。色もくすんだ茶色である(日本のフワフワの食パンと正反対だ)。

ウンブリアのパンもローマのパンも、私のパンの先生が言うには日本のパンより随分水分を多くしているそうだ。小麦粉の種類が違うせいだという。

それにしても、このパン屋の若旦那のパンのプロとしての根性や、技はすばらしかった。田舎のパン屋とはまた違った面白さだ。明日はウンブリアのフォカッチャとローマのフォカッチャについて書こうと思う。

今日子



今日は夜の9時からおいしいと評判の近所のパン屋さんに見学に行ってきた。ローマからウンブリアに引っ越す時、なじみのパン屋さんに、「よかったね、ウンブリアはパンがおいしいんだよ!」と言われたのを覚えている。

トスカーナの塩なしパンが有名だが、実はウンブリアの塩なしパンはもっとおいしいと言われているのだ。ずっと気になっていたおいしいパンの謎が今日解けたので、感激だった。

見学してまず驚いたのが、薄力粉を使っていることだった。パンなのに、薄力粉だ。そして、表面をバリバリにさせるために天然酵母を使うこと。天然酵母を使うと表面がバリバリして、イタリア人の好きなパンになる。

この天然酵母はただ単に小麦粉と水をまぜて、暖かいところに一日置いただけのものである。それプラス、市販のビール酵母を入れる。こうすることで発酵を助けるという。

もう一つ驚いたのは、作っているおじさんが小麦粉と水、酵母の分量をほとんど全部目分量でやっていることだ。普通日本人が何か作る場合、きちんと何グラムか計って作る。それがこのおじさんは、「二袋小麦粉を入れたから、水はだいたいバケツ5、6杯」、あとは見た目で水が足りないかどうか見て決めているのだそう。

小麦粉が精製されたばかりだと、水分が多いので水は少なめ、古くなるにつれて乾燥するので、あとは目で見て多めに入れるという。生地を触りもしないのだ。計りを使わないのは、もう20年この仕事をしているから、目で見てわかるのだそうだ。

そうやって、おじさんと若いアシスタントはあ、うんの呼吸でどんどんパンを作っていく。本当に見ていて気持ちがいい程リズムが良い。

発酵は1時間でおわり、きれいにふくらんだパンをガスのオーブンで焼いていた。

薪のオーブンで焼くパンは午前2時から焼くと言うことで、残念だがまたの機会にみることにした。

彼らは夜九時から仕事を始め、朝6時から7時に終わり、寝に帰るそうだ。20年このやはりパンの仕事は時間が他の人の生活と違うので、他人との生活のズレを調整するのは大変だろう。次回はここで見たフォカッチャの焼き方を紹介したい。

今日子



パンの先生が日本から遊びに来ている。彼女はもうすぐ雑誌、家庭画報での通販も始める、実力のある人だ。今回はイタリアの家庭でパンを作ってみるということで、さっそく作ってみた。

1週間近く前からこちらで干しぶどう、イチゴ、洋梨で天然酵母(日本で作り方を教えてもらった)を用意しておいた。しかし来て実際に見てびっくりだった。やはり、日本の材料と分量でやっているのとまったく別物ができていたのだ。

干しぶどうの天然酵母はわりといい状態で、いつも安定しているのだが、イチゴと洋梨は日本で教えてもらったレシピで作っても、水分が多くなりすぎ、随分と粉を加えて固くしなければならなかった。やはり、水や小麦粉、気候の違いが原因だという。

そういえば私も日本に帰国した時に、店で日本の材料を使ってフォカッチャを焼いてみてショックをうけたことがある。今までの経験で身に付いている感触と全く違い、出来上がりも別物だった。これだけ材料の質が違うと、同じ分量のレシピではうまくいかないということだ。

と言う訳で、レシピとは別に、自分の手で試しに固さを調節しながら作ってもらった。第一弾は息子が日本で食べたメロンパンがもう一度食べたいということで、メロンパンを焼いてもらった。すばらしくおいしいメロンパンで、大感激だった。明日は全粒粉のパンや、こちらであまりおいしくない食パンなどなど、いろいろと教えてもらうつもりだ。そして近所のパン屋さんの見学や、ローマのおいしいパン屋さんの見学も予定している。

それにしても、つくづく自分で触ってたしかめることが大事だと勉強になった。

今日子



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