日本から帰ると、自宅から200メートル離れたご近所に落雷があり、我が家も電話線が壊れ、暖房が使えない状態になっていた。電話も大事だが、夜はマイナスになり、とにかく寒いので暖房だけなんとか直してもらった。電話が直ったのはそれから5日も経ってからだった。
この辺りはよく雷がなるが、近所の家はドアが全部壊れ、離れの家も衝撃でメチャクチャになったそうだ。
そんな中ですぐにクリスマスという一年で一番大事な行事に突入した。12月24日のイタリアは、国中プレゼントを買う人々で盛り上がっている。
日本にいると街中にクリスマスソングが流れるが、ジングルベルなどの音楽はあまり聞かなく、教会での宗教音楽を耳にする。
24日夜はイエス・キリストの誕生前夜なので、キリスト教徒のシンボルでもある魚を食べる。質素な食事が前提だ。ところが24日に皆が皆魚を買うことを利用して、ローマの魚屋では一度解凍した魚700キロをもう一度冷凍して売ろうとしていたそうだ。もちろん一度解凍した肉や魚をまた冷凍して売ることは禁止されているので、その魚屋は捕まったそうだ。魚が質素だったのは昔の話で、イタリアでは肉や野菜に比べて魚は高くつく。この魚屋も以前に売れ残った魚をなんとか全部売って儲けようとしたのだ。
24日の夕食のあとは、教会に行って歌を歌ったり神父の話を聞いたりする。私の住んでいる小さな村では、村の人約20人がコーラス隊をやっており、かなり積極的に活動している。音楽など習ったこともないような人ばかりだが、彼らが教会で歌いだすと、質素で小さな教会が突然サントリーホールのようになる。教会の音響効果は抜群で、ヨーロッパの音楽が教会で生まれたのがよくわかる。これを聞いただけでクリスマスをこちらで過ごせてよかったと思う。
25日になると、前日まで騒がしかった街がシンとなり、昼食の前にまた教会に行く。昼食はターキーをオーブンや暖炉で焼いたものを食べるということになっているが、子羊を食べる家もあるし、それぞれだ。
我が家は私と夫、ローマに住む親戚も風邪で体調を崩したので、子供と3人で静かに過ごした。それでも親しくしているカポッチ家に26日の昼食に招待されたり、24日は老夫婦二人きりというご近所を招待して一緒に過ごした。
日本人の私にとって、クリスマスは「この行事は一年で最も大事なんだ」と心に言い聞かせて盛り上げないと周りから浮いてしまうのだが、それでも食事を作ったり音楽を聞いたりしているうちになんとかなるものだ。
今日子
2004年12月
搾油所
搾油所に行って来た。もちろん、今年のブオーノイタリアのオリーブオイルを注文、確認するためだ。この時期の搾油所は修羅場と化していて、主のマッシモさんは連日の徹夜で形相が変わっている。搾油所に入った途端、オリーブオイルの強烈な香りが顔にぶちあたる。なんていい匂いなのだろう。
マッシモさんの話では、今年のオリーブオイルは抜群においしいという。
毎年今年のオイルはおいしいと言っているが、実際においしいのもあるし、農作物なので毎年味が変わるので仕方がない。今年の特徴は、夏場雨が降らなかったが、猛暑ではなかったので味にコクがあり、あまり辛すぎず、香りが高くてそれでいて重くない、と言うことだそうだ。
オリーブオイルを選ぶ時、搾油所というのは大変重要なのだ。この辺りにもたくさんの搾油所があるが、同じ地域のオリーブでも、搾った時に搾油所によってまったく味が変わる。どうやってオリーブを育てたかやどこの地域のかも大事だが、どんなにうまくオリーブを育てても搾油所のせいでおいしくなくなってしまうということもあるのだ。もっと言うと、搾油所で使う機械のメーカーによっても変わってくる。
コールドプレス方式(30度の温度で搾る方式。オリーブを熱すると、あたりまえだが油なので搾り方も早くなるが、熱されたオイルは酸化して味は落ちてしまう。コールドプレス方式など方式を書かないで、熱しているところも多いので気をつけなければならない)で搾られたマッシモさんのところのオリーブオイルは、この辺りでも一番評判の搾油所である。
さて、家にもって帰ってオリーブオイルをパンにつけて味見してみる。オイルの味がよくわかるよう、塩もニンニクもつけないでそのまま食べると、これはすばらしい!! 本当に、今年のオイルはかなり濃厚で、口に入れた時に動物性脂肪とまったく違った脂肪分がパアッと広がる。飲み込んでからすぐに少しの心地よい辛みが残る。ちょうどお昼時だったので、自慢のブロッコリーのスパゲッティを手早く作り、このオリーブオイルをたっぷりかけて食べる。
そのおいしいことと言ったら、あっという間に一皿半平らげてしまった。このパスタは来週の料理教室で教えるので、興味のある方はぜひいらして下さい(もちろん、店より先に新もののオリーブオイルを届けるので、これを使って作ります)。
*2週間の日本滞在により、ウンブリア日記はお休みします。次回は20日以降にお楽しみに。
今日子
パンペパート
今日はパンペパートを作った。毎年1回この時期にだけ作るクリスマス菓子。パンペパートはウンブリアでも南の方だけのクリスマス菓子で、ちょっと北の方のペルージャなどではもう作られていない。最初見た時は、なんて変な形の食べ物だろうと思った。泥を丸めたような華やかとはほど遠いお菓子だ。
しかし試しに買って食べてみると、オヤッと思った。チョコレート、カカオ、4種類のナッツにピール、干しぶどう、エスプレッソ、リキュール、ハチミツなどなど材料名に様々な名前がある。そして何より気に入ったのが、中にコショウがたくさん入っていることだ。
チョコレートとコショウはとても合う。興味がわいたので作ってみることにした。レシピは近所の主婦に聞いたが、それぞれ自分のレシピを持っていてちょっとずつ違う。私が思いついたのは、買ったピールではおいしくないと、自分でシチリア産無農薬オレンジを使った手作りのオレンジピールを作ったこと、干しぶどうは3ヶ月以上ラム酒に漬けておいたこと、リキュールはそれぞれ好きなものを入れるが、ナッツがたくさん入ったお菓子なので、自家製クルミのリキュールを入れたこと、最高級のチョコレートを使ったこと、固めるための小麦粉を最小限に抑えたことだ。これが、市販されているパンペパートとは似ても似つかないおいしいものに変身した。
作る時一番大変なのは、5キロのチョコレートを削る作業だが、これも今年は友人でレストランをやっていた人に業務用の機械を借りたので大変ではなかった。あとは材料を全て混ぜ合わせてみそ汁用のお椀に入れて型を作り、オーブンで焼くだけだ。焼くのは200度のオーブンで約6、7分、焦げないように焼く。小麦粉が少ないので形が少し崩れるが、後で冷えた時に直せばよい。これで出来上がりだ。
チョコレートをオーブンで焼くなんて不思議なものだが、一度食べるとやめられないおいしさだ。
去年は阿佐ヶ谷の店にいらしたお客様がこのパンペパートを見て、「何十年も前にイタリアで一度だけ食べたお菓子で、次にイタリアに戻ったときは見つからなかった。こんな所でまた出会えるなんて!」と感激してくれた。見つからなかったのは、やはりこの時期だけのお菓子だからだろう。こんなに喜んでいただけて、作った方もとてもうれしかった。
12月7日前後にブオーノイタリアの店に並ぶので楽しみにしていただきたい。
今日子