ナスがおいしい季節になってきた。畑のナスは毎日大きな丸い実をつけている。ナスのパスタなど別に目新しくもないと思うかもしれないので、今日はちょっと変わったレシピをご紹介する。
ナスといえば油をよく吸う、スポンジのような野菜だ。オリーブオイルとの相性も抜群だが、近頃外で食べるナス料理のあまりの油の多さに胃がぐったりしてしまう。巷のレシピにはナスを炒めるのに“カップ一杯のオリーブオイル”と書いてあったりして、油を吸うだけ吸わせようという魂胆か。そりゃあ、こんなにたくさん油を使ったソースは味のインパクもあり、おいしいに違いない。
しかし私にとってイタリア料理は、食べた後に胃もたれせず、具合の悪くならない料理が理想だ。
普通の量を食べたとして、その時おいしい!っと思っても後で胃がおかしくなるのは“おいしい”の部類に入れたくない。原因は質のよくないオリーブオイルを大量に使っている場合が多い。
特にナスは油をたくさん吸うので、炒める場合に油を多めに入れがちだが、油が少量でもちゃんと焦がさないで火を通すことができる。大事なことは時々焦げないように混ぜることと、パスタの具にする場合、形が崩れても気にしないことだ。
そう考えると、日本にはすばらしいナスの調理法がある。和食のナス料理といえば、焼きナス(他にもあるけど)。日本の焼きナスの要領でパスタのソースを作ってみたらどうなるか。実際にはトルコ料理をお手本にしているこのソースは、ナス6~8本を丸ごと強火で焼いて皮をむく。それを大さじ一杯程度のオリーブオイルでニンニクと一緒に形がなくなるくらいに10分ほど炒め、塩を入れて加減をみる。一緒に炒める香草にはローズマリーかバジリコを使い、最後にあればフレッシュチーズ(モッツァレッラチーズ、リコッタチーズ、など)を30gくらい入れて出来上がりだ。他の材料とあわせて使うことの多いナスだが、このソースは油にもトマトにも頼らない、ナスだけの魅力が一杯のソースだ。
ナスはチーズとの相性も抜群で、熟成された濃厚な味のチーズ(パルミジャーノなど)ともよく合うが、夏の暑い日にはさっぱりした脂肪分の少ない、ミルクの味のするチーズを使いたい。パスタはショートパスタの方がソースによく絡む。
焼きナスの燻製のような香ばしい香りが一杯で、ナス独特のトロリとおいしい味を楽しみたい。暑さが和らぐ夜8時半頃、庭のオリーブ畑を背に食べる野菜のパスタは最高においしい。
今日子
2005年07月
夏祭り
先週から私の村では毎年恒例の夏祭りが始まっている。夏祭りでは村の主婦達が作る「タベルナ」と呼ばれる食事どころができ、レストランより安い値段で簡単な食事ができる。簡単と言っても前菜からデザートまで一通り食べることができ、私の好きなのは手作りのフォカッチャに生ハム又はサルシッチャ(ソーセージ)、チーズなどをはさんで食べるものだ。冷たいビールと一緒に食べると昼間の暑さの疲れも吹っ飛ぶようだ。フォカッチャはサックリパリパリしていて、日本人の好きな「モチッとした食感の生地」とはちょっと違う。
お皿やコップなどはすべてプラスチックで、料理のメニューも少ないので「かしこまった食事を!」と思って行くと期待はずれかもしれない。しかし主婦達の作る家庭的な料理はリラックスできて楽しめる。外で食べるということもあって、これもリラックスにつながるのかもしれない。それぞれの村に料理に特徴があり、うちの村では鹿肉の料理をだすことになっている。といっても鹿肉は冷凍で北イタリアから取り寄せているそうだ(ここでも私は羊肉と一緒で鹿肉を食べたくないので、味についてはなんとも言えない。でもシルヴィオは鹿肉のラグー(ミートソース)のパスタをおいしいと食べていた。ジビエ関係はシルヴィオに任せることにしている)。
トランポリンなど子供が遊べる施設もあるので、食事をしなくても、夜8時過ぎて涼しくなると村の人々が家族連れでゾロゾロとやってくる。知り合いばかりなので、親同士、子供同士楽しく過ごす。大人の楽しみのメインは、広場に設置されたステージと、社交ダンスを踊れる広い場所だ。ステージには毎晩地方を廻るバンドがやってきて、昔ながらのイタリア音楽をアコーディオンをメインにして演奏する。
ステージの下では皆が社交ダンスを踊る。かなり気合いを入れて、毎晩踊りにくる村の人もたくさんいる。そこでは仲良しの年配の夫婦や、小さな子供達、16歳くらいの女の子が組になって踊っていたりする。若い女の子同士というのはよくあるそうで、皆練習のために若い女の子同士で組むそうだ。ヘタでも上手でも皆楽しく踊っていて、子供の頃から皆自然に社交ダンスを覚えていくようだ。中にはお父さんが娘に教えていたり、お母さんやおばあちゃんが小さな子供と踊っていたりして微笑ましい。社交ダンスは日本でいう盆踊りみたいなものなのかしらとカルチャーショックをうける。
もちろん、踊りが苦手な人もいて、そういう人達はフロワーの周りのイスに座って親しい人々が踊るのを涼みながら見ているのだ。
毎晩行くわけではないけれど、夜仕事をしていても風にのってアコーディオンの音楽が聞こえてくるので、これを聞くと夏だなあと思える。シルヴィオが言うには、こういった村祭りを見ると、まるで50年代を思い出すということだ。そこがまた、古きよきイタリアっぽくてステキなのだ。
今日子
ローズマリー
田舎に住んでから、ローズマリーを料理に使うことが多くなった。ローズマリーは家の庭に長さ3メートル、幅1メートルで私の背より高いりっぱなものがあり、一年中いつでも新鮮で香り高い枝を折って使えるようになっている。生のローズマリーの香りは特別で、田舎の様々な料理に登場する。肉料理、フォカッチャ、豆料理などなど、トマトを使わない料理には特によくでてくる。
フォカッチャを焼く時に、生のローズマリーをたくさんちらし、上から深い緑色のオリーブオイルを回しかけると、オリーブオイルにローズマリーの緑色の汁がにじみでてとてもきれいだ。ローズマリーは焼けるとパリパリになり、しゃしゃりでてこないのにそれでいて全体を丸く深い香りに包むオリーブオイルに混じって、素朴ながら本当においしい。都会で食べた油臭いフォカッチャとは別物だ。フォカッチャはやはり新鮮な生のローズマリーと良質の緑っぽい香りのするオリーブオイルがきいているのがよい。
今日は乾燥豆や雑穀のミックスとサルシッチャ(生の粗挽きソーセージ)の中身を一緒に煮込んでみた。サルシッチャは中身をだして水から煮込み、一晩水に漬けておいた乾燥豆と雑穀のミックスも煮込む。味付けは塩加減だけで、どの種類の豆でも柔らかく煮ることが大切だ。普通は2、3時間コトコト煮ると柔らかくなる。水の量は最初たっぷり入れた後、煮ながら足していくとよい。
煮上がったら半分はミキサーにかけてドロドロのポタージュにし、残りを一緒に混ぜる。こうすると食べた時に程よく雑穀や豆の歯ごたえを味わえる。
食べる時には生のローズマリーを細かくみじん切りにし、オリーブオイルと混ぜてニンニクを漬け込んだソースを上にかけて食べる。これがまたよいアクセントになっている。このソースをかけないでもおいしいことはおいしいのだが、なんとなくどんよりと野暮ったい味になる。ローズマリーとオリーブオイルをかけた途端、ハッとするようなさわやかな味になるのだ。
ローズマリーの香りはさわやかさに混ざってかすかに甘い香りもする。食べる時にその甘さが鼻をくすぐるような感じがしていいのだ。
今日子
プラムパイ
今日は息子の大親友のカポッチ家(隣の)のガブリエーレ(6歳)が遊びに来た。いつも面白い子供だが、今日はこれまた面白かった。Tシャツになにやらベットリ茶色いものがついているのでどうしたのかと聞いたところ、「ウサギの血がついちゃったんだよ」とサラリと答えた。今日はウサギを絞めたらしいが、茶碗一杯分の血をかけたような後で、着替えもしないで一日中そのTシャツで過ごしていた。そういえば、彼が2歳くらいの時、何か持って歩いているから「何持っているの?」と近づいて行ったら、絞めたばかりの鳩の首をつかんで歩いていて仰天したことがあった・・・。ガブリエーレ、すごい。
話は変わって、今日はたくさん余っていたプラムのパイを作った。プラムは種を抜いてフライパンで砂糖と一緒に炒める。バターも何も入れないで、強火で炒める。途中で水分がたくさん出るので、少し捨てないとプラムソースになってしまう程だ。かなり酸っぱいので味見して砂糖の量を加減するとよい。じわじわ炒めるとジャムとになってしまうので、さっと炒めてプラムの形を残しておくのがよい。
パイ生地は、小麦粉400gにバター150gと塩、少量の砂糖を入れてフライ返しか何かでバターが小さくなじむまで切るように混ぜる。混ざったら水を少量ずつ雨が降るように入れ、全体にザックリと混ぜて丸くまとめる。水の量は小麦粉がかろうじてまとまるくらいでよいので、たくさん入れてべちゃっとならないことが大切だ。こうすることでパイ生地がさくっとなる。
休ませたパイ生地を2等分し、パイ皿にオーブンシートを敷き、やや厚めに伸ばした生地を敷く。次に冷ましておいた火を通したプラムをたっぷり入れ、残りのパイ生地を同じように伸ばして蓋をし、220度のオーブンで焼き目がつくまでしっかりと焼く。
甘酸っぱいプラムがたっぷりのパイは、味も濃くてインパクトが強いので、中身に負けないよう、パイ生地はハードな感じにした方がおいしい。
夕方のおやつに、外にでてお茶を飲みながら食べることにした。子供達も喜んで食べてくれた。私はガブリエーレのTシャツが気になってしかたがなかったが、本人はまったく気にもとめていないようだった。
今日子
プラムのジャム
朝ご近所から電話があり、プラム(西洋スモモ)の木に実がたくさんなっているから採りにおいでと誘われた。プラムにはいろいろな種類がある。今回のこのプラムは大きなサクランボくらいの大きさで、とても甘酸っぱい。この辺りではモモや洋梨を育てるにはなにかしら手入れが必要で面倒と言われているが、プラムは気候が合うせいか何もしなくてもたくさんできる。
はしごに登って1時間程バケツ一杯のプラムを採りまくった。収穫はなんでも興奮する。たくさん採ったのに、上の方にたくさんなっているのを残しておくのが惜しい。しかし後のことを考えて、一応これで終わりにする。
オリーブの実もそうだけれど、このプラムも種をとるのがえらく大変である。家に帰ってからバケツ一杯のプラムを水で洗い、種を抜いていく。一人でのんびりやったら2時間以上かかる。途中で別の用を済ませてまた取りかかり、いつまでたっても終わらないと後悔しはじめる。こんなにたくさん採らなければよかった、と。
この種を抜いたプラムは、ジャムやパイを作ったりする。今日はジャムを作り、残りは砂糖漬けにして明日にでもパイを作ることにした。ジャムは、しばらく砂糖漬けにしたプラムの水分を出し、その水分は半分捨ててしまう。そして大鍋に強火で1時間、ひたすら煮る。アクがでるけれど、それもとらないで私の腕の長さ程ある長い木べらで時々かき混ぜなが煮ていく。まるで給食の調理風景のようだ。この大鍋はもう一回り小さいのを買おうとしてなかったので、仕方なく買ったものだ。こんなに大きい鍋、滅多に使わないだろうと思っていたのに、今ではなくてはならない物になっている。煮ること30分、あれだけ水分を捨てたのに、あとからあとからたくさん水分がでてくる。
ジャムが調度良いゆるさになったら火をとめる。赤紫のとてもきれいなジャムができた。これを瓶に詰めて煮沸消毒したらおしまいだ。酸味の多いジャムはたくさん作って保存し、一年中食卓にならぶ。冬の果物が少ない時期にこのジャムを使ってクロスタータを作ったり、チーズの付け合わせに食べてもとてもおいしいのだ。もちろん朝食にも欠かせない。去年のジャムが終わって朝食はハチミツだけだったので、これからまたバリエーションができてうれしい。
明日はプラムのパイをご紹介するつもり。
今日子