隣近所のカポッチ家の男の子に、中学で日本について勉強しているので、ぜひ授業に来てほしいと頼まれた。村の中学校は本当に小さな学校で、13歳の彼の学年は1クラスしかなく、12人だけだ。私が日本で中学校に通っていた時は、1クラス40人で9クラスあったから、えらい違いだ。

私は人前でしゃべるのは苦手だし、しかもイタリア語、それもかなり方言が強いので、夫・シルヴィオが一緒ならいいよとOKした。やはり村の人と仲良くしようと普段から心がけているから、ここはひとつ、がんばらねばと思ったのだ。この村に住んで5年経つが、方言の強いお年寄りが話すときなど、未だにさっぱりわからない。シルヴィオが仕事柄まったくアクセントのない話し方をするので、それに慣れている私には方言は悩みの種だ。イタリアでは特に統一国家になったのが最近で、田舎だからというだけでなく、州に寄ってまったく違う方言を話す。

さて、約束の12時半に教室に着くと、みんなニコニコ顔で迎えてくれた。実際に12人の生徒を見てみると、どの生徒も村のどこかで見たことがある。この小さな村では、始めアジア人の私をかなり珍しがったものだ。今でこそ慣れてくれたが、最初の一年くらいは皆私を見かけると凝視して固まっていた。アジア人など見たことがない人ばかりだったのだろう。

教科書を見ると日本の地図、東京の高層ビルの写真などがあった。皆それぞれ質問を考えて来たらしく、一番疑問に思っているのが、日本の経済成長についてだった。イタリア人が働かない、仕事がスムーズに進まないというのは日本でも知られているが、一番の日本人の仕事の仕方と違うのは、個々の責任感ではないかと思うと答える。すると横で先生が「いいですか、責任感ですよ!責任感!」と大きな声で厳しく言う。あとは食べ物の話になり、すしとは何かと聞かれる。にぎり寿司は普通レストラン(寿司屋)で食べるもので、家庭では握らないと答えると皆驚く。イタリアではレストランでプロの職人だけが作れる、修行しなければ上手く作れない料理など存在しないからだ。

そして"日本がアメリカに影響され、超モダンな暮らしをしている"、と教科書に書いてあるのを見て、「でも日本ではまだハシでご飯を食べるのか」と先生に聞かれた。一瞬目が点になり、どういう意味かと考える。ハシは別に原始的な食べ方ではないのだけれど・・・、あまりに突拍子もない質問にただ「はい、ハシで食べます」としか答えられなかった。こういう質問にはいったいどう答えたらいいのか、あとから悶々と考えてみたけれど、いい答えはでない。

30分という短い時間だったけれど、シルヴィオがしゃべり続けて(さすがプロ)皆満足してくれたみたいだった。やれやれ。

今日子