息子のトモは幼稚園が終わると、いつもとなりのカポッチ家のガブリエーレと遊ぶ。年も1歳しか変わらないので、生まれた時から一緒なのだ。夕食をお互いの家ですませることも多いのだが、今日もガブリエーレがうちで夕食を食べていくことになった。

しかし今日の夕食は和食にしようと思って白いご飯を炊いて準備していたので、不安になった。はたしてガブリエーレは和食を食べるだろうか?以前息子が大好きな海苔をバリバリ食べていると、あんまりおいしそうに食べていたせいか、それを見たガブリエーレが「僕も食べたい」と言い出した。一口食べたガブリエーレは歪んだ顔で「僕、こういうの慣れていないから・・・」と吐き出した。その時の変な顔といったらなかった。

今日の夕食は白いご飯としょう油と酒に漬けて焼いた牛肉だ。イタリアでも都会にでれば外国の料理を食べたことがある人も多いが、ここでは和食どころか、隣国のフランス料理も受けつけない人が多い。「しょうゆって体に悪いんでしょ?」と真顔で聞かれるし、そもそもしょう油を知らない人の方が多いくらいだ。

なんにも食べられないとかわいそうだから、チーメという、野生のアスパラをさらに苦くした野草の卵焼きを作って一緒に出すことにした。これはこの辺りではよく知られているこの時期に薮の中に生える植物で、先の方をサッと茹でて苦みをとり、卵焼きにして食べるのだ。イタリアの卵焼きは中に柔らかく炒めたズッキーニなどの野菜とパルミジャーノを入れて焼く、野菜主体の卵焼きがほとんどで、このチーメもその一環だ。そういえば日本でもほうれん草入りのオムレツや具沢山のスペイン風オムレツなどがあったことを思い出す。

卵焼きはフランスのオムレツのように中が半熟でふんわり焼くのと違い、しっかり中まで火を通すことが多い。チーメの卵焼きはほろ苦さと卵の風味が調和されてとてもおいしい。

さて、夕食がはじまって、初めての和食スタイルにガブリエーレは興味津々だ。まず牛肉を食べてみて、「うん、おいしい」とどんどん食べるではないか。しょうゆ味でも大丈夫らしい。そして初めて食べる日本のお米に、「このお米固いね」と不思議な感想。日本の白いご飯はイタリアの白いお米のようにアルデンテではないし、どちらかと言うと柔らかいのでは?と思うが深く追求しないことにする。

そしてチーメの卵焼きもおいしそうに食べ、塩の味もしない白いご飯が最後に残ってしまった。味がしないと嫌なのかと思い、お土産にいただいた佃煮をあげてみる。すると「うわ~、こんなまずい物は食べたことがない」と渋い顔で水をがぶ飲みする。次に横でトモがおいしそうに食べているスグキ(京都のカブの漬け物)を見て、これも食べてみたいと言う。なんでもトライしてみる質らしい。そしてスグキを一口食べてみて、「これはおいしい!」と言い、お皿に山盛りスグキを食べて帰った。スグキなんて日本の子供でも嫌いな子は多いだろうに、意外だった。でもまあ、お腹いっぱいで帰ったからよしとしよう。

今日子