深巳 琳子さんの「沈夫人の料理人」という漫画を送ってもらった。読んだらものすごくおもしろくて、すぐに大ファンになった(中華料理のことだけでなく、ストーリーや人物設定も最高)。ここにあるレシピは昔の中華料理だが、鶏1羽とか豚の背脂とか、もみじ入り鶏ガラスープなどの材料はうちにもある。化学調味料を使わない、贅沢なダシの取り方もうちでならできる。
ローマに行けば中華食材店が充実していて、紹興酒やごま油も安く簡単に手に入る。ショウガやネギはここでも売っているし、読んでいるうちにどうしても中華料理が食べたくなって作ってみることにした。
数あるレシピから今ある材料で作れそうなものを考えると、カニ入りの小龍包のようなものがあった。カニや豚の皮の煮こごり(これは作ろうと思えば作れるが)はないけれど、豚肉と干し椎茸でやってみる。
問題の皮は、材料に小麦粉、酵母、かん水とあり酵母はちょうど干しブドウの天然酵母を日本の友人に習っている最中で、発酵したものがあった。かん水ってなんだろうかとインターネットで調べてみると、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの2種類とある。海水がどうの、と書いてあったので、もらったフランス産の精製していない海の塩と重層を適当に混ぜてみる。
そしてレシピのとおり、材料を混ぜて皮を綿棒でのばし、ひき肉をショウガ、ネギ、干し椎茸などと一緒に混ぜて包んでみる。大きな蒸し器がないのが不便だが、普通の鍋に野菜を蒸す時に使う道具をしいて、くっつかないようにオーブンシートをしいて蒸してみる。
出来上がったものは、まさに、小龍包のようだった。皮がモチッとして中華料理屋で食べたやつと同じで、豚の皮の煮こごりがなくても(スープをすって中にたまる)十分ジューシーで感激した。
うちの近所に中国人の元スチュワーデスのおばさんが住んでいるので、その人に話したら、ぜひその漫画を読んでみたいと興味深そうだった。日本語で残念だけど、料理名は全部中国語だからと言うと、それでもいいわと言っていたので今度持って行くことにした。その人は餃子ならよく作るのだが、うちは旦那(イタリア人)が嫌いなのよ、と嘆いていた。旦那がいない時に多めに作って冷凍しておき、一人で食べるのだそうだ。私の夫は中華料理も好きでほんとによかった。
今日子
2004年08月
トマトとモッツァレッラチーズのパスタ
またトマトを使ったパスタを一つ。これはとても簡単で、例によってシンプルな料理ほど材料がおいしくないといけない。
トマトとモッツァレッラチーズを使ったパスタで、ショートパスタ、ファルファッレ(蝶型のパスタ)との組み合せが私は好きだ。このパスタは夏はどこの家庭でもよく食べるものだ。
ボールに大きめの生のトマトで、皮を剥いたものを角切りにして入れる(2、3個)。モッツァレッラチーズもトマトと同じ量を同じく角切りにしてボールに入れる。生のバジリコ、乾燥のオレガノ、塩、ニンニク2かけ、オリーブオイル半カップをお好みで入れて合わせておく。
茹で上がったパスタを用意しておいたボールに入れてあえるだけで出来上がり。熱くもなく、冷たくもないのがよい。パスタの熱でほんの少しモッツァレッラチーズが溶け、トマトの甘くて香り高い汁にチーズの牛乳の汁が混じり、これがパスタによく絡んで本当においしい。アクセントのバジリコは、トマトの甘みを余計に強くするようだ。
夏になるとモッツァレッラチーズと生トマトの組み合せは日本のそうめんのようによく食べられる。これがちょっとお腹をいっぱいにしたい時、急のお客さんが来たときなど、パッパと作れるのでパスタをあわせる。抜群においしくて誰でも喜んで食べる、便利なレシピなのだ。
今日子
ワインビネガー
イタリアに来てからよくサラダを食べるようになった。サラダはごはんのおかずにはならないけれど、肉料理にはよくあう。よく高齢のヨーロッパのおばさんなど、毎食必ずサラダを食べるという人までいる(サラダはおいしいし、種類も数多くある)。
その中で最近発見したのが、自家製のワインビネガーだ。ワインビネガーなんてイタリアで買うと安いし、どれも同じかと思っていたら全く違っていた。近所の農家の人にわけてもらったワインビネガーは、サラダにかけるとたしかにブドウの香りがして酸味もきつ過ぎず、本当にサラダが何倍もおいしく感じた。オリーブオイルと一緒で、素材の味を殺さず、よりおいしく食べられるワインビネガーだった。
私も作ってみたいと思い、作り方を聞いてみると、まず市販のワインには酸化防止剤が入っているのでできないそう。そこで普段飲んでいる農家のワインを使ってみる。市販の酸化促進材も売っているが、この家のは生のスパゲッティ2、3本、クリスマスの時期にあるとげのある植物の赤い実(名前が思い出せないので今度調べてみる)を4、5個入れる。これでワインが発酵するのだ。
スパゲッティを使うなんてさすがイタリアだと感心する。ワインによってどのくらい時間がかかるかはまちまちだ。この家では大きな樽の下の方に蛇口がついていて、上面にたまるカスのようなカビのようなものが入らないようにしている。
前に東京でイタリア産ワインビネガーを買ったら、驚くほど高くて、苦くてツンツン鼻につくだけで料理が台無しだと思った。イワシのオイル漬けを作ったのだが、ワインビネガーがブドウの香りだったらさぞおいしくできていただろう。
今日子
原種のトマト
そろそろトマトの瓶詰め作業の時期だ。今年は例年に比べて一ヶ月近く遅い収穫になる(春に雨がたくさん降って苗を植えられなかった)。近所の農家でも、自分の畑のトマトだけを瓶詰めにする所は数少なく、たいてい八百屋で買いたしていっぺんに作る。
私の畑でも30株の苗を植えたが、今年のトマトはなぜか下が黒くなってしまう病気になり、少なめの収穫だ。黒くなるのは水が少ないためだとか、土の養分のせいとかいろいろ言われているが、真相はよくわからない。いずれにしても来年の夏まで使うトマトの量には間に合わないから残念だ。
今年は40キロのサンマルツァーノトマトを買った。全部で14ユーロ(約二千円弱)だった。しばらく雨が降らないので味は割と良い方だろう。家の畑で収穫すると一度に何十キロも採れないので、その都度瓶詰めにするのが面倒だという理由もあって、買う方が良いと皆言う。ちなみに、500gの瓶に詰めるのにはトマト1キロの量が必要だ。40キロのトマトは1週間程使わない部屋の床に転がしておき、熟成するのを待ってから瓶詰めにする。
ただ今年の夏はトマトの勉強に来た友人がサンマルツァーノやヴェスビオ産、パキーノ産の他の種と混ぜていない”オリジナル”の種をお土産に持って来てくれたので、来年は自分の畑で採れるトマトで瓶詰めを作りたいものだ。
オリジナルの種とは、商標登録をしてあるので栽培する許可を持っている農家しか作れない、どこにも売っていない、ものすごく貴重なものなのである。もちろん、味も改良されていないのでその辺で買う苗とは比べ物にならないほどおいしいだろう。風土が合うかどうかわからないが、来年の2月は一念発起して種からトマトを育ててみるつもりだ。
今日子
アックアコッタ
アックアコッタは、トスカーナ地方の料理である。もともとはマレンマ(トスカーナの南の田舎)のもので、貧しい炭焼き人が食べていたスープだ。バリエーションは数えきれない程あるが、もとはセロリとタマネギとトマトがベースのスープで、シンプルだがおいしい料理だ。
タマネギとセロリを角切りにしてじっくり弱火で炒め、皮を剥いたトマトを入れたら沸騰したお湯を入れる。炭焼き人の家(木の枝でつくった貧しい家)にはいつも炭があってお湯を沸かしていたのでお湯には事欠かなかったそうだ。そして塩を入れて2時間程煮たら、固くなったパンをトーストしてスープ皿に入れ、出来上がったスープをかけて食べる。その日の仕事がうまくいけば卵をスープに入れて食べたそうだ。
このスープはトスカーナのレストランではほとんど作っているだろうか。ソーセージを焼いて入れたり、ほうれん草やニンジンなどを入れてそれぞれの味をだしているが、やはりオーソドックスなものがうまくできればそれが一番おいしいと思う。レストランではセコンドを食べるのに、パスタを選ばないで軽めのアックアコッタを食べるようにする人も多い。
スープはパスタに比べてインパクトが薄いが、家庭では重要な位置を占める。家庭によって好みのスープを健康的に食べるものなのだ。
今日子