buonitaliaのblog

2005年01月

イタリアはここ4、5日大寒波だ。南イタリアでは3日間高速道路から出られない車が延々200キロもいる。3日間も大雪の中、高速道路で動けないなんて考えただけでも恐ろしい。私の住んでいる所では、車で20分の駅から電車が通っていないらしいが、おかしなことに私の家のまわりだけ晴れている。いつもそうなのだが、近くで大雨洪水になったりしても、ここだけは災害にあわない。今回の雪も、10センチも降らないうちに終わってしまった。それなのに村の学校は全て休校になったりして変だなと思う。「雪には慣れていないから」だそうだ(??)。しかしこの天候の良さが、オリーブの木にもよい影響を与えるのだろう。

今日は昨年12月初めに収穫したオリーブの実をどうにかしなければと思い立った。収穫した次の日には東京に帰ったりして、二ヶ月近くほったらかしにしてしまった。生のオリーブはとにかく苦くて食べられないので、瓶に入れて塩漬けにしておく。普通1ヶ月もしないうちに下に黒い水がたまっているので、それを捨てて1週間程水につけて塩抜きをする。カビが生えないよう、2日ごとくらいで水を代える。これで味見して塩加減がちょうど良くなっていたら、ペーストやオイル漬けなどを作る。ただの塩漬けで置いておくとカビが生えるが、市販のオリーブの塩漬けのように保存料を入れるわけにもいかない。カビ対策を万全にすることが大切だ。ペーストの場合は、種を抜いてレモン汁を入れ、ミキサーにかけて瓶詰めの煮沸消毒にする(これが面倒くさくて2ヶ月近くもほったらかしていたのだ)。市販のものだとオリーブオイルを入れてから煮沸をするが、やはり食べる時に熱を加えていないオリーブオイルを混ぜる方がおいしいので、私はこの方法を使う。ペーストはブルスケッタにしたり、パスタに和えたり、トマトソースに混ぜたり、ちょっとした食卓の変化にとても役に立つ。オリーブオイルはペーストと同量くらい混ぜるので、最終的には二倍近くの量になる。オリーブのなんとも言えない苦みはとてもおいしい。

今年は他にオリーブの実のオイル漬けを作ってみた。塩漬けの実を煮沸消毒すると柔らかくなりすぎてしまい、味も落ちるが、ここは天然保存料のオリーブオイルをたっぷり使う。全部漬かっていればいつまでもカビが生えない。家の大家さんはオリーブの実にニンニクやペペロンチーノをたっぷり入れて保存するし、カポッチ家ではワインビネガーにつけ込んだり、各家庭によって少しずつ保存の仕方が異なる。日本でいうと田舎の家の漬け物のような感じ。生ハムのような派手な保存食も楽しいが、地味なものでも自分の家で採れたものを大切に保存できるのがうれしい。私の手作りではないが、吟味してこれにとても近い味のおいしいペーストを作っている所を見つけたので、ブオーノイタリアのお店にも春くらいにはオリーブのペーストが並ぶ予定だ。皆さん楽しみにしていて下さい。

今日子



パルミジャーノはおいしい。イタリア食材の中で最も世界中に知られているのもうなずける。たまにイタリア人でも嫌いな人がいるけれどごく少数で、何にかけてもおいしい。イタリアに来たばかりの頃、どんなパスタにも山ほどかけて食べていたのだが、ある時夫にそんなにかけたら他の味がしなくなってしまうじゃないと言われた。そういう食べ方は「ダサイ」と。ダサイ?これはいけない、ダサイ食べ方なんて嫌だと思い、かけすぎないよう気をつけてみた。

まず第一に、パルミジャーノは魚介類には使わない。魚介類のデリケートな味を消してしまうし、何よりも二つの味は合わないという。そういえば、アサリのスパゲッティにパルミジャーノはかけないか。たまにほんのパラリ程度にかける分には大丈夫、というシェフもいるそうだが、めったに見ない。

他にはオリーブの実のペーストのパスタなどもそうだ。先日いつものようにフランス人のおばちゃんとその旦那さん(イタリア人)、イギリス人とイタリア人の夫婦を夕食に招待した際に、ペーストのパスタを作ってみた。このフランス人のおばちゃんは、この近くでものすごく素敵なホテルをやっていた人で、ホテルのレストランも自分でやっていたような料理上手な人だ(ホテルは年金生活になり2年前に閉めた)。

私がパスタを茹で終わってペーストを混ぜようとしていると、パルミジャーノをどっさり入れようとした。遠慮がちに「パルミジャーノはテーブルにおいてそれぞれ好きに使えばどうかしら」と言うと、「あら、パルミジャーノは普通みんなパスタにかけるでしょう?」と言われた。「ええ、でも、例えば私なんかはこのパスタにはかけなくてもいいかなと思って・・・」と言うと「あらそう」と変な顔をした。そして食事が始まってみると、パルミジャーノをかけたのはフランス人とイギリス人の二人だけだった。オリーブの優しい味にパルミジャーノは強すぎる。しかしコッテリ系が好きな人なら物足りないと思ってしまうのだろう。フランスもイギリスも食事がこってりだしなと納得する。
*このおばちゃんのやっていたレストランは、フランス料理寄りのイタリア料理で、もちろんとてもおいしかった。

外国人に人気のカプリッチョーザというピザ、卵やハム、野菜にチーズと具沢山ピザで、私も実は好きなのだが、イタリア人にとっては邪道だという。日本人はざるそばが好きだが、外国人にとってはこのシンプルで素朴な味がおいしいんだよ、と言われて学習しないと「フ~ン・・・」と思うことになる。

夫が和食を食べていて、しょうゆってパルミジャーノに似ているねと言ったことがある。おいしいけど、パルミジャーノのように塩分が強くて旨味も強いから、たくさん使うと他の味が消えてしまうじゃない、という。料理を生かしもするし殺しもする。世界に広がるパルミジャーノとソイソース、意外な所で接点があった。

今日子



今日は友人夫婦がローマから来たので、一週間前に豚を解体した時に作ったサルシッチャ(生ソーセージ)を食べることにした。サルシッチャは、骨についているところや顔の肉など、細切れの余った部分の脂を取り除いてひき肉にしたものだ。塩、こしょうを多めに入れてひき肉によくなじませ、魚の腸に詰めてひもでしばっていく。たくさんあるので一度に食べず、寒い部屋に吊るして乾かしておくのだが、これがだんだんサラミのようになっていく。もちろん生でも食べられるし、暖炉の炭火で少しあぶって食べてもよい。よく乾いたらオイル漬けにすると一年でも保つ。ちょっとしたつまみや、小腹が空いた時にパンにはさんで食べたりするので大変重宝する。

今日は暖炉の炭火でフォカッチャを焼き、アツアツのフォカッチャにサルシッチャを挟んで食べることにした。フォカッチャは、ピザを作る時と同じように小麦粉、ビール酵母、ぬるま湯、塩をこねて5、6時間発酵させたものを使う。これを平たくのばし、アルミホイルに包んで炭の中に放り込む。こうすると高温で生地がとてもいい具合に焼ける。ガスオーブンで焼いた生地とは大違いで、まわりがバリバリっとして、中身がホワッと柔らかくなる。焼けた生地を二枚に切って見ると、ガスや電気のオーブンで焼いた時と違ってきれいな気泡が出来ているのがわかる。肉と小麦粉の大変シンプルな組み合せで、バターやレタス、マヨネーズなどを一切使わないこの食べ方は、豚肉と小麦粉の旨味と甘み、香りなどをこれ以上ない程よく味わえる。

サルシッチャによくあう付け合わせの野菜は、ブロッコレッティやキャベツだろうか。今日は畑のキャベツを使う。キャベツは沸騰した湯の中に一個を四等分に切り、10分くらい茹でる。しんなりしたら湯から出してよく水気を切る(熱いので冷めてから手で搾るようにする)。そして食べやすいようにザクザクと大きめに切る。これに、皮ごと塩ゆでしたジャガイモを一口大に切り、ニンニクとオリーブオイルでキャベツと一緒に炒める。塩こしょうで味付けをしたらできあがりだ。日本でもキャベツ炒めはあるが、これはキャベツが柔らかくなっている所がポイントだ。ジャガイモとうまく絡んでたっぷり食べられる。この時期になると必ずこの料理を作り、豚肉とキャベツとジャガイモってなんておいしいんだろうと、しみじみ感激する。料理自体はとても単純なものだが、日々の食生活の中で楽しみながら料理をするのは、私にとってはとても大事なことなのだ。

今日子



夏にたくさん採れた紫色のプルーン。よく乾燥のプルーンは売っているが、私はジャムをたくさん作った。それでもあり余っていたので、実験的にプルーンを半分に割り、種をのけて砂糖をたっぷりかけて冷凍にしておいた。これできちんと保存できているか見てみたら、甘みがしみ込みやわらかくおいしくなっていた。でも食べるとちょっと皮が気になったので、これを使ってトルタを作ることにした。クロスタータというイタリアのどこででも見られるトルタは、だいたいどこで食べてもあまりおいしいと思わないようなトルタだ。バターや卵をたっぷり使わないのでボソボソっとしたタルト生地に、ただジャムを塗って焼いただけのトルタ。しかし田舎で手作りのジャムを使い、生地をちょっと私なりに工夫してみたら、おいしいトルタができあがった。

まず、生地にバターを使わないで、ラードを使う(もちろん、豚を解体した時に自分で作ったラード)。小麦粉500グラムと、その三分の一のラード、150から200グラムの砂糖(好みで)、ひとつまみの塩、卵2個、アーモンドプードル、レモン半個分の皮をおろしたものを小麦粉になじむまで手で混ぜる。ボロボロっとした状態になったら一つに丸めてラップに包み、冷蔵庫で30分程休ませる。

この生地を半分より少し多めにとり、タルト型、またはオーブン皿にラードを薄く塗り、生地を3、4ミリの厚さに伸ばしてしく。余った生地は下になる生地より少し薄めに伸ばしてから、包丁又はルレットで1センチから1.5センチの幅に切っていく。

次にオーブン皿にしいた生地の上に、プルーンのジャムをまんべんなく塗り、砂糖漬けのプルーンを敷き詰める。そして長めに切っておいた生地を格子状にしいていく。これで180度のオーブンに入れ、約40分、生地がキツネ色になるまで焼く。

日本で食べるようなフワフワしたケーキに比べると、日持ちがする。日に日に味が落ち着いておいしくなっていく感じだ。イタリアでは日本と正反対で、日持ちのするケーキの方が好まれる。生地にラードを使うと、香ばしくてサクサクしたかんじになる(ショートニングに近いかもしれない)。自家製のラードは新鮮な脂肪を使うので、豚の臭いがまったくしない。豚の脂をお菓子につかうなんて、と最初に思ったのは間違いだった。ジャムをもう一度オーブンで焼くと水分がとんで、もっと果物の味が濃くなる。最初皮が気になったプルーンも柔らかくなり、新鮮な果物をたっぷり使ったトルタと変わらない。アーモンドはいろいろなお菓子に役立つのでいつも台所に置いてあるし、他にもあり合わせの材料で最高においしくてかわいらしいトルタが焼けるのが、田舎生活の楽しみの一つだ。

今日子



今日は午後2時から豚の解体第二弾が始まった。カポッチ家の外の台所(貯蔵庫のような所に台所がある)で、親戚が8人集まる。豚の持ち主アルジェーロとイーボが中心になってどんどん出刃包丁で肉を切っていく。横で女5人と12歳の娘が骨についた肉を削ってサルシッチャ(生ソーセージ)用の肉を切ったり、豆を煮る時に使う皮の脂肪を除く作業をする。その中に私も混じって頭の肉を削ったりした(!)。皆本当に真剣で、手早く作業するので緊張する。誰か懇切丁寧に教えてくれるわけではない。家庭によってどの部分をどうやって食べるかも異なるので、最初からどこを干し肉にしてどこをサルシッチャにするか漠然としかわかっていなかった私には大変だった(肉の部位もいろいろな呼び方があるので、それを覚えるだけでも苦労した)。

作業場には暖炉があるのだが、ドアを開けっ放しにしているので寒くて仕方がない。手がかじかんで包丁を持つ感覚もなくなってくる。しかし寒い所で行わないと、肉がいたむので仕方がない。

骨についた肉の部分と一緒に、レバーを半分ひき肉にしてサルシッチャ(マッツァフェーガト)を作る。サルシッチャの皮は、塩漬けの魚の腸をぬるま湯につけてふやかし、中に安い白ワインを流し込んで臭みをとって使う。昔は豚の腸を使っていたそうだが、洗浄が大変なのと破れやすいのとで皆魚の腸を使うそうだ。塩とコショウを肉の量の約10%入れるのでかなり塩辛くなるが、このサルシッチャは2週間ちかく干しておくので塩こしょうをたくさん入れることで殺菌にもなる。

3時間で切る作業が終わり、きれいに切った生ハム用の大きなモモ肉、ベーコン用の三枚肉、もう一つのハム「カポコッロ」は別の場所に5キロの岩塩をまんべんなくかぶせて40日間寒くて風通しのよい所に置いておく。水分が下に落ちるのでおがくずを敷いておく。

この時点で私は寒さと疲労で熱い風呂に入って寝たい気分になっていたが、ここからが農家の女達のすごいところだ。手伝ってくれた親戚を招いて夕食を20人分作って食べる。時給いくらで働くのではなく、切ったロースを20枚提供して、感謝の気持ちを表す。さあ夕食の用意をしましょうと、今食べない肉を小分けにしてビニール袋に入れて冷凍庫に保存した後、ニンニクの皮を剥き、オリーブオイルを鍋にしいてパスタ用のソースを作り始める。夏の間に作ったトマトの瓶詰めを大量に鍋に入れ、サルシッチャを作った時に余った粗挽きの肉をトマトの中に放り込む。この肉は骨についていた味が良くでる部分なので、パスタソースに入れるとすばらしくおいしいダシがでる。

ロース肉は暖炉の炭火でローズマリーと塩こしょうでじっくり焼く。サラダを作って夜7時半にはみんなで食事を始める。どれも本当においしくてすっかり元気も回復した。やはり肉がおいしいと料理がここまでおいしくなるのだなあとうれしくなる。食事が終わったらナポリ式のトランプで遅くまで大騒ぎだった。皆素朴で元気で、おいしいことが人生の中で本当に大事な位置を占める人達なのだなあとつくづく感心した。最後に驚いたのは、カポッチ家は他の3家族も豚を解体するそうなので、昨日と今日のような夕食が何日も続くそうだ。う~ん・・・すごい!

今日子



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