3日程アブルッツォ州に行って来た。ローマに住むシルヴィオの親戚が、毎年夏中避暑のために借りている家に泊まらせてもらった。車で我が家から3時間、ローマからだと1時間のその村は、アブルッツォ州の高く連なる山の中にある。
私とシルヴィオは高速道路を使う旅があまり好きではないので、いつも地図を見ながら曲がりくねった細い道を選んで旅をする。当然、時間も3時間が5時間になったりして遅くなる。さらに、イタリアの道路標識の不親切さといったらひどいものだ。何かのイタリアの新聞に、“この国の道路標識は道に迷うためにあるようなものだ”と書いてあったが、まさにその通りだ。私は日本で運転免許を持っていなかったので日本ではどうかわからないが、お国柄、ここまでわかりにくいことはないだろう。私だけでなくイタリア人でも皆そういうので、外国人にとってはさらに困難だ。
大切なことは道に迷っても怒らないことで、迷って知らない道にでて新発見をしたら儲け物と思うことにしている。イタリアの田舎の美しさというのは高速道路や電車からではわからない。山の中のちいさな道をどんどん行くと、見渡す限り緑と空しかないのに突然小さな中世の街並みの残る街に出会う。こんな所に一体どうしてこんなにきれいな街が!と、出会った時の喜びといったらない。小さな名もない街なのに、山と一緒になったその風景はまさに今の時代から違う時代に来たみたいだ。
イタリア国内にこういった街は無数にあるそうで、観光とは無関係に暮らしている人々がいる。どこからも不便な場所で、人口も数える程の所で、皆一体どういった生活をしているのか、本当に興味をそそられる。
中には過疎化が進んで誰もいなくなった末、また村を立て直してバカンスの時だけ都会から人が訪れるバカンス村になっていたり、捨てられた街をオランダ人やベルギー人の芸術家が街ごと買い取ってきれいになおして住んでいたりする。
今回行った場所もそういったバカンスの村で、避暑に来た人々がたくさんいた。州が変わると水もかわり、食べ物も変わる。アブルッツォ州ではおいしい小麦がとれるため、パンやパスタもおいしかった。畑も私の住んでいる所と違い、水がたくさんある。私の畑ではつくれないような葉野菜がいっぱいだ。家の持ち主が言うには、トマトは気温が低いためにあまりたくさん採れないそうだ。
何もしないで涼しい時間を過ごし、おいしいものを食べ、また帰りはトコトコとゆっくり山の中を走りながら、ようやく家にたどりついてみると、なんと途中で寄ったバールに鞄ごと忘れてきていることに気がついた。
カードも携帯も身分証明書も全部忘れていたので、バールに電話するとバールのお姉さんがとっておいてくれていると言う。家から1時間もかかる所だが、仕方がないので私一人でとりに行くことにする。私はひどく忘れ物が多く、年に2~3回はお財布を落としたり忘れたりする(子供の頃からだから年のせいではないはず・・・)。駅だったり道だったりお店だったりと深刻な問題なのだが、なぜか毎回誰かが拾ってくれたりしてなくしたことがない。田舎だからというのもあるが、泥棒がものすごく多いイタリアで、この確率はすごい。
でもいつかきっと痛い目にあうだろうから、本当に気をつけなければならない・・・。
今日子
2005年08月
ズッキーニの花
ズッキーニの花はとてもおいしい。この時期は畑に咲いている花を摘んで揚げ物にしたり、ピザの上にのせたりと大活躍だ。
ズッキーニのかわりにカボチャの花でも同じくおいしく食べることができる。
ズッキーニの花を破れないようにきれいに水で洗い、中のめしべをとる。モッツァレッラチーズを1カケ(2センチくらい)、アンチョビを一つまみ花の中に入れて全体に衣をつける。この時の衣は、イタリアのレストランだとベッタリ重い衣がついていて、天ぷらに慣れている日本人にとってはおやっ?と思ってしまう。私の家ではもっと天ぷらに近いサックリした衣を使うようにしている。
ただ、衣があまり軽すぎると花を閉じる役目をしないので、揚げている最中に中身がでてきてしまう。天ぷら程軽くなく、イタリアの衣程重くない中間の衣と言ったらよいか。卵1個に対して水1カップ、薄力粉半カップ強くらいを目安に考える。
それを高温のオリーブオイルでサッと揚げる。火はすぐに通るので、中のモッツァレッラチーズに火が通りすぎて揚げている最中にでてこないように気をつける。
油をよく切って揚げたてのアツアツを食べると、中からジュワッとモッツァレッラチーズが溶け出して、口の中にアンチョビと花の香りが混ざっていく。オリーブオイルと花の香りはなんとも言えないおいしさだ。こればっかりは、新鮮な採れたての花と良質のオリーブオイルでないとここまでおいしくはならない。
シルヴィオは今までイタリア中のいろんなレストランでこの料理を食べたけれど、こんなにおいしいと思ったことはないと言う。これだけの贅沢な料理は、まるで女王様の食事のようだと心底うれしそうだ。“花”だから王様ではなく女王様というところがなるほどと納得する。何が贅沢かって、摘みたてを最良の方法で、最高の素材のオリーブオイル、アンチョビ、モッツァレッラ(この時はたまたまナポリから水牛のモッツァレッラが届いたが、もちろん普通のモッツァレッラでもおいしい)、生みたての卵で作った衣で食べるところがこれ以上ない贅沢なのだ。
先日のイタリアの新聞に、イタリアでは近頃レストランに来るお客が大幅に減っているとでていた。ユーロになってから物価が倍近くに跳ね上がったことも影響しているが、逆に言えば、そんなに高いお金を払って食べるよりは、家庭で良質の料理をもっとおいしく食べた方がいいというのが多くのイタリア人の本音なのだろう(この話については後日、シルヴィオの“森の書斎から”に掲載予定)。
今日子
七面鳥を絞める
暑い暑いと思っていたら、1週間前から雨が降って涼しくなった。朝夕は寒くて長袖を着るほどだ。今日はエミリアおばさんの七面鳥を絞める日で、我が家も一羽頼んでおいたので手伝いに行くことにした。この間地鶏を絞める日にすっかり寝坊して約束をすっぽかしてしまったため、今日はどうしても行かなければならない。
エミリアおばさんは朝6時からドラム缶にいっぱいのお湯を薪でわかして用意する。着いたらすでにカポッチ家の親戚のおばさんも2人いて、七面鳥を絞めている最中だった。七面鳥はニワトリに比べて大きくて力も強いため、男の人でないと力負けしてしまうので、そこだけ旦那さんに手伝ってもらう。だいたい体重が11キロ程で、大きいのだと17~18キロにもなる。
七面鳥を食べ始めたのは息子が2歳になるまで食物アレルギーがあったため、鶏ではなく七面鳥にした方がよいと医者に勧められたからだ。七面鳥の肉は淡白で、特に農家で飼育しているものは繊維も多い。でもそれはきちんと運動をして市販の飼料を食べていないからだそうで、実際変な脂肪の匂いがしない。それまでレストランで食べたこともあったが、なんでこんな肉を好んで食べるのだろうかと疑問に思っていた。おいしいともおいしくないとも言えない、と思っていたのだ。ところがエミリアおばさんの飼っている七面鳥をカポッチ家で炭火で丸焼きにして食べたときに、七面鳥のおいしさがわかったのだ。なんというか、さっぱりしているのに香りがよくて繊維も気にならない。秘訣は火を通す前にグラッパ、ローズマリーとオリーブオイル、塩、レモンの皮に漬けておくことだそうだが、それでも肉屋で売っている七面鳥ではこんな味にはならないだろう。
絞めた七面鳥を沸騰したドラム缶のお湯にサッと入れて取り出す。こうして羽をむしるとスムーズにいく。皆で羽をむしりながら、「また生えてこないからいいわよね」と冗談を言って笑う。それからレバーや砂肝などを取り出して小さく刻む。こちらは新鮮なうちにニンニクとオリーブオイル、ローズマリーなどの香草で炒めて食べる。
一度に食べるには大きすぎる量なので、モモ、胸肉など切り分けて今日食べる部分以外は冷凍にしてしまう。切り分けたら水できれいに洗って一通りの作業はおしまいだ。全部で7羽もあったので、かなり大変な作業だった。終わったのは午前11時頃で、なるほど、こういう風にして肉屋に並ぶのだなあと納得する。
普通農家から肉を買う場合、お金だけ払って解体を手伝ったりはしないのだが、私の場合豚の解体にも参加しているので、そういえば鶏や七面鳥も参加した方がいいのかしら?とふと疑問に思い、手伝うようになってしまった。私が手伝うと農家のおばちゃんたちはすごく喜ぶ。ただ労力が一人分増えるからという理由だけではないみたいだ。まさか都会からやってきた人間がこんなことをするとは思ってもみないらしく、私が農家の暮らしを心底いいなと思っていることが伝わるからなのだろう。
今日子